難波潟 入江の氷 とけにけり 葦間をわけて 春や立つらむ
夜をこめて 若菜つみにと 急ぐ間に はるかに過ぎぬ 荻の焼け原
むすびおきし 谷の氷も うぐひすの 初音も今朝は うちとけにけり
千載集
梅の花 折りてかざしに さしつれば 衣に落つる 雪かとぞみる
鏡山 すがたも見えず 春霞 八重たなびける 今朝のけしきに
咲きそむる 花を見捨てて いかなれば こころも空に 帰る雁がね
雁がねに 春帰れとや たまづさを つけけむ人は 契りおきけむ
いつしかと 咲きにけらしな うぐひすや 枝にこもれる 花さそふらむ
朝まだき 鳴くうぐひすに さそはれて こころにもあらぬ 花を見るかな
杉むらも 名のみなりけり 三輪の山 花をや春の しるしとはみむ
名乗らねど 匂ひにしるし あさくらや きのまろどのに 咲ける桜は
紀の国や 有馬の村に ます神に たむくる花は 散らじとぞおもふ
吹く風を 厭はでをみむ この春は なかなか散らぬ 花もありやと
白雲は 四方の山辺に たなびきて 絶え間も見えぬ 花のさかりか
花の散る 度にこころの 砕くれば あやなく春の うらめしきかな
吹く風に いと乱れぬる わがやどの 五もと柳 折りてこそみめ
くちなしに 匂ひそめける 山吹に いかにいひてか かはづなくらむ
見る度に ここにゐてとぞ いはれける 八重山吹の 花のさかりは
千載集
年ふれど 変わらぬ松を 頼みてや かかりそめけむ 池の藤浪
こゑたてて 泣けどかへらぬ 春ゆゑに こころをさへも つくしつるかな