和歌と俳句

徳大寺公能

下紐は とけずばとけず 小夜衣 その移り香に しむ身ともかな

新勅撰集・恋
手にとりて ゆらぐ玉の緒 たえざりし 人はかりだに 逢ひ見てしがな

鳴海潟 潮干における 網なれや 目にはかかりて 逢はぬ恋する

名にしおはば 春うちとけよ 近江路の しののをふぶき しのびしのびに

恋路には ただ一方に 入りにしを いづくへまよふ こころなるらむ

新古今集・恋
わが恋は 千木のかたそぎ かたくのみ ゆきあはで年の つもりぬるかな

千載集・恋
おほかたの 恋する人に ききなれて 世の常のとや 君おもふらむ

かづきする いせをのあまも かくやあらむ しほたれにけり 恋の涙に

人知れぬ 恋はいかなる 色なれば こころに深く おもひそめけむ

うたたねに まどろむほどの 夢ばかり 逢ふやこのよの なぐさみにせむ

後の世の ことを思へば 恋ひ死なじ さりとて君も なさけかけしを

ちぎりおきし ことはしのぶや いかにとも 逢ふよなければ 訪はでこそふれ

恋ひしさに たえぬ命と 君ききて なさけをかけば 惜しからじかし

逢ひみむと 契りしことを 頼みつつ まつに命を かけてこそふれ

新勅撰集・恋
つくづくと 落つる涙に 数しらず 逢ひ見ぬ夜半の つもりぬるかな

こころこそ 千々に砕くれ 逢ひみむと しのぶる人は 一人なれども

薫物の くゆるおもひを あかざりし その移り香に よそへてぞふる

人はいさ われは忘れず 呉竹の そのよばかりの ふしはなかりき

小夜衣 露のへだては なけれども みをわけてこそ いらまほしけれ

春日山 神に祈れる 言の葉は 待つ程もなほ たのもしきかな