拾遺集・春
千とせまで限れる松も今日よりは君に引かれて万代や経む
拾遺集・春
近くてぞ色もまされる青柳の糸はよりてぞ見るべかりける
拾遺集・春
散りそむる花を見すてて帰らめやおぼつかなしと妹は待つとも
拾遺集・夏
鳴く声はまだ聞かねども蝉の羽の薄き衣はたちぞ着てける
拾遺集・秋
女郎花にほふあたりにむつるればあやなく露や心置くらん
拾遺集・秋
秋の月浪の底にぞ出でにける待つらん山のかひやなからん
拾遺集・秋
紅葉せぬときはの山は吹風の音にや秋を聞きわたるらん
拾遺集・秋
紅葉せぬときはの山に住む鹿はをのれ鳴きてや秋を知るらん
拾遺集・秋
もみぢ葉を今日は猶見む暮れぬとも小倉の山の名にはさはらじ
拾遺集・秋
秋霧の峰にも尾にもたつ山は紅葉の錦たまらざりけり
拾遺集・冬
我が宿の雪につけてぞふる里の吉野の山は思ひやらるゝ
拾遺集・冬
新しき春さへ近くなりゆけばふりのみまさる年の雪哉
拾遺集・冬
をきあかす霜と共にや今朝は皆冬の夜深き罪も消ぬらん
拾遺集・冬
雪深きやまぢに何に帰るらん春待つ花の蔭に留まらで
拾遺集・賀
ちはやふるひらのの松の枝しげみ千世もやちよも色はかはらじ
拾遺集・賀
ふたばよりたのもしきかな春日山こだかき松のたねぞとおもへば
拾遺集・賀
君がへむやほよろづ世をかぞふればかつかつけふぞなぬかなりける
拾遺集・賀
千とせともかずはさだめず世の中に限なき身と人もいふべく
拾遺集・賀
ゆひそむる初もとゆひのこむらさき衣の色にうつれとぞ思ふ
拾遺集・賀
君がためけふきる竹の杖なればまたもつきせぬ世世ぞこもれる
拾遺集・賀
位山峯までつける杖なれど今よろづよのさかのためなり
拾遺集・賀
おひそむるねよりぞしるきふえ竹のすゑの世ながくならん物とは
拾遺集・別・金葉集・別離
別れぢを隔つる雲のためにこそ扇の風をやらまほしけれ
拾遺集・別
をみなへし我に宿かせ印南野のいなといふともこゝを過ぎめや