和歌と俳句

藤原兼輔

あたらしき年のはじめのうれしきはふるきひとどちあへるなりけり

後撰集・雑歌
うばたまの今宵ばかりぞ明けころも明けなば人をよそにこそみめ

後撰集・雑歌
ふるさとの三笠の山は遠けれど声はむかしの疎からなくに

宿ちかく移して植ゑしかひもなくまちとほにのみにほふ花かな

続後撰集・春
宿ちかくにほはざりせば梅の花かぜのたよりに君を見ましや

君がため我がをる宿の梅の花いろにぞいづる深き心は

色も香もともににほへる梅の花散るうたがひのあるやなになり

梅の花たちよるばかりありしより人の咎むる香にぞしみぬる

もとの香のあるだにあるを梅の花いとどにほひのそはりぬるかな

青柳のまゆにこもれる糸なれば春の来るにぞ色まさりける

君がゆくかたのはるかにききしかどしたへばきぬるものにぞありける

さくら花にほふを見つつ帰るにはしづごころなきものにぞありける

たちかへり花をぞわれはうらみこし人の心ののどけからねば

明日知らぬものとしるしる桜花ちらぬかぎりは見まくほしはた

散るにほひあだなるものといふなればかくてのみこそ見るべかりけれ

ひろひおきて見る人し有れば桜花ちりてののちのくやしさもなし

雪のごと散りくる春の桜花ふゆは残れるここちこそすれ

さくらはな白髪にまじる老人の宿には春ぞ雪も絶えせぬ

後撰集・春
わが着たるひとえ衣は山吹の八重の色にもおとらざりけり

くちなしの色このみといふ名はたてて井出の山吹さかり過ぐすな