あふことをこよひこよひとたのめずばなかなか春の夢もみてまし
にはたづみ木の下ごとに流れずばうたかた人をあわと見ましや
春雨のふるにつけつつみのむしのつける枝をばたれか折りつる
もろともにわがをる宿の梅の花あかぬにほひを誰に見せまし
限りなく名におふ藤の花なればそこひもしらず色の深さに
後撰集・春
色深くにほひしことは藤浪のたちもかへらず君とまれとぞ
きのふ見し花のかほとてけふ見れば寝てこそさらに色まさりけれ
後撰集・春
ひとよのみ寝てしかへれば藤の花心とけての色みせむやは
いたづらに明けばあやなしほととぎすなくをまつとて君はとどめむ
つつむべきほどならなくにほととぎすさつき待つ間の名にこそあるらし
いにしへのことかたらへばほととぎすいかがしてかはふるこゑのする
ほとときすなきのみ渡る夏山のしげくも物を思ふころかな
人知れぬ宿に住みせばほととぎす憂き五月雨は知られざらまし
ほととぎすなきまふ里のしげければ山辺に声のせぬもことわり
うれしくていとど行く末わびしきは秋よりさきの風にざりける
古今集・雑躰俳諧歌
いつしかとまたく心をはぎにあげて天のかはらをけふやわたらむ
七夕をわたしてのちは天の川なみたかきまで風もふかなむ
こひわたるたなばたつめにあらばこそけふしも人にあはむとおもはめ
七夕にわがかすものはまたもなし今宵ばかりのあはぬものなり