伊勢物語・四十三段
ほととぎす汝がなく里のあまたあれば猶うとまれぬ思ものから
古今集 伊勢
五月こば鳴きもふりなん郭公まだしき程のこゑをきかばや
古今集 友則
音羽山けさこえくれば郭公こずゑはるかに今ぞ鳴くなる
古今集 素性法師
ほととぎす初声きけばあぢきなくぬしさだまらぬ恋せらるはた
古今集 素性法師
石上ふるき宮この郭公こゑばかりこそ昔なりけれ
古今集 友則
五月雨に物思ひをれば 郭公 夜ふかく鳴きていづちゆくらむ
古今集 友則
夜や暗き 道やまどへる 郭公 わがやどをしも過ぎがてに鳴く
古今集 大江千里
やどりせし花橘も枯れなくになど郭公こゑたえぬらん
古今集 忠岑
暮るるかとみればあけぬる夏の夜をあかずとやなく山郭公
古今集 躬恒
郭公こゑもきこえず山彦は外になく音をこたえやはせぬ
古今集 貫之
五月雨の空もとどろに郭公なにをうしとか夜ただ鳴くらん
貫之
やまざとに たびね夜にせし ほととぎす こゑききそめて ながゐしつべし
貫之
ほととぎす なくなるこゑを 早苗とる てまうちおきて あはれとぞきく
貫之
さつき来る 道もしらねど ほととぎす なくこゑのみぞ しるべなりける
貫之
ほととぎす 来つつこたかく なくこゑは ちよの皐月の しるべなりけり
貫之
たまほこの 道もゆかれず ほととぎす なきわたるなる こゑをききつつ
後撰集 よみ人しらず
なきわびぬいづちかゆかむ郭公なほ卯の花のかげははなれじ
後撰集 よみ人しらず
あひみしもまたみぬこひも郭公月になくよぞよににざりける
後撰集 よみ人しらず
ありとのみ音羽の山の郭公ききにきこえてあはずもあるかな
後撰集 伊勢
木がくれて五月待つとも郭公羽ならはしに枝うつりせよ
後撰集 よみ人しらず
旅寝して妻こひすらし郭公神なび山にさよふけてなく
後撰集 伊勢
郭公はつかなるねをききそめてあらぬもそれとおぼめかれつつ
後撰集 藤原師尹
如何せむをぐらの山の郭公おぼつかなしとねをのみぞなく
後撰集 よみ人しらず
郭公暁かたのひとこゑはうき世の中をすぐすなりけり
拾遺集 よみ人しらす
春かけてきかむともこそ思ひしか山郭公おそくなくらん
拾遺集 よみ人しらす
はつこゑのきかまほしさに郭公夜深くめをもさましつるかな
拾遺集 久米広縄
家にきてなにをかたらむあしひきの山郭公ひとこゑもがな
拾遺集 貫之
山里にしる人もがな郭公なきぬときかはつげにくるかに
拾遺集 よみ人しらす
山里にやどらざりせば郭公きく人もなきねをやなかまし
拾遺集 坂上望城
ほのかにぞ鳴渡るなる郭公み山をいづるけさのはつ声
拾遺集 是則
山かつと人はいへとも郭公まつはつこゑは我のみそきく
拾遺集 伊勢
ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
拾遺集 貫之
このさとにいかなる人かいへゐして山郭公たえすきくらむ
拾遺集 実方
さ月やみくらはし山の郭公おぼつかなくもなきわたるかな
拾遺集 よみ人しらず
郭公なくやさ月のみじかよもひとりしぬればあかしかねつも
拾遺集 順
ほととぎす待つにつけてやともしする人も山べによをあかすらん
後拾遺集 能宣
ききすてて君が来にけむほととぎすたづねにわれは山路こえみむ
後拾遺集 能因
夜だに明けばたづねて聞かむほととぎす信太の森のかたに鳴くなり
後拾遺集 赤染衛門
鳴かぬ夜も鳴く夜もさらにほととぎす待つとて安くいやはねらるる
後拾遺集 能因
ほととぎす来鳴かぬ宵のしるからば寝る夜もひと夜あらまし物を
新古今集 紫式部
郭公こゑ待つほどは片岡の森のしづくに立ちや濡れまし
和泉式部
またねどももの思ふ人はおのづから山ほととぎす先ぞききつる
続後撰集・夏 和泉式部
たが里にまづききつらむ郭公夏はところもわかずきぬるを
続後撰集・夏
みやこには ききふりぬらむ ほととぎす 関のこなたの 身こそつらけれ
続後撰集・夏返し よみ人しらず
ほととぎす なこその関の なかりせば 君がねざめに まずぞそきかまし