和歌と俳句

後撰和歌集

藤原兼輔朝臣
短夜のふけゆくままに白妙の峰の松風ふくかとぞきく

貫之
あしひきの山した水はゆきかよひ琴のねにさへ流るべらなり

藤原高経朝臣
夏の夜はあふ名のみしてしきたへのちりはらふまに明けぞしにける

忠岑
夢よりもはかなきものは夏の夜のあかつきがたの別れなりけり

よみ人しらず
よそながら思ひしよりも夏の夜の見果てぬ夢ぞはかなかりける

伊勢
ふた声と聞くとはなしに郭公夜深く目をもさましつるかな

藤原安国
あふと見し夢にならひて夏の日のくれがたきをも嘆きつるかな

よみ人しらず
うとまるる心しなくば郭公あかぬ別れに今朝はけなまし

をりはへてねをのみぞなく郭公しげきなげきの枝ごとにゐて

ほととぎす来ては旅とやなきわたる我は別れのをしきみやこを

ひとりゐてものおもふわれを郭公ここにしもなく心あるらし

たまくしげあけつるほどのほととぎすただふたこゑもなきてこしかな

かずならぬわがみやまべの郭公このはがくれのこゑはきこゆや

とこなつになきてもへなむほととぎすしげきみやまになにかへるらむ

ふすからにまつぞわびしき郭公なきもはてぬに明くる夜なれば

五月雨にながめくらせる月なればさやにも見えず雲かくれつつ

ふた葉よりわがしめゆひし撫子の花のさかりを人にをらすな

あしひきの山郭公うちはへて誰かまさるとねをのみぞなく

つれづれとながむる空の郭公とふにつけてぞねはながれける

色かへぬ花橘に郭公ちよをならせる声きこゆなり