和歌と俳句

僧正遍昭

古今集・春
花の色は霞にこめて見せずとも 香をだにぬすめ 春の山かぜ

古今集・春
浅緑いとよりかけて白露を珠にもぬける春の

後撰集・春
折つればたぶさにけがる立てながら三世の仏に花たてまつる

後撰集・春
いその神ふるの山べの桜花うへけむ時を知る人ぞなき

山風に櫻ふきまき乱れなむ花のまぎれにたちとまるべく

拾遺集・雑春
まてといはばいともかしこし花山にしばしとながむとりのねもかな

古今集・離別歌
夕ぐれのまがきは山と見えななむ夜はこえじとやどりとるべく

今こむといひて別れしあしたよりおもひくらしのねをのみぞなく

拾遺集・雑歌
ひとこころうしみついまはたのまじよ夢にみゆやとねぞすぎにける

古今集・雑歌小倉百人一首
あまつ風雲のかよひぢ吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ

後撰集・雑歌
たらちめはかかれとてしもむばたまの我が黒髪を撫でずやありけむ

後撰集・雑歌
今更に我は帰らじ滝見つつ呼べど聞かずと問はば答へよ

うつせみは殻をみつつもなぐさめつ煙だにたて深草の山

新古今集・雑歌
ささがにの空にすがくも同じことまだき宿にも幾世かは経む

新古今集・哀傷
末の露もとの雫や世の中のおくれさきだつためしなるらむ

古今集・哀傷歌
みな人は花の衣になりぬなりこけのたもとよ かわきだにせよ

いはのうへに旅寝をすればいと寒し苔のころもを我にかさなむ

やまふしの苔のころもはたた一重かさねばうとしいざふたりねむ