和歌と俳句

僧正遍昭

後撰集・雑歌
世をそむく苔の衣はただ一重貸さねば疎しいざ二人寝ん

限りなきくもゐのよそになりぬともひとを心におくらざむやは

古今集・秋
里はあれて人はふりにしやどなれや庭もまがきも秋の野らなる

古今集・賀
ちはやぶる神やきりけんつくからに千歳の坂もこえぬべらなり

あらひとの君が祈りししるしあらばやそちのをちにつかへざらめや

拾遺集・雑秋
ここしにも何にほふらん女郎花人の物言ひさがにくき世に

いろをめで折れるばかりぞ女郎花われおちにきと人にかたるな

古今集・秋
名にめでて折れるばかりぞ女郎花 我おちにきと人にかたるな

花とみて折らむとすれば女郎花うたたるさまの名にこそありけ

古今集・雑躰俳諧歌
秋の野になまめきたてる女郎花あなことごとし花ひととき

古今集・雑歌
わび人の住むべき宿とみるなへに嘆きくはへる琴のねぞする

拾遺集・秋
秋山のあらしの声を聞く時は木の葉ならねど物ぞかなしき

拾遺集・冬
唐錦枝に一むら残れるは秋の形見をたたぬなりけり

拾遺集・秋
わび人のわきてたちよる木のもとは頼むかげなく紅葉ちりけり

古今集・物名
散りぬれば後はあくたになる花を思ひ知らずもまどふてふかな

花のなかめにあくやとてわけ来れど心ぞともに散りぬべらなる

古今集・春
よそに見てかへらむ人に藤の花はひまつはれよ 枝は折るとも

古今集・夏
蓮葉のにごりにしまぬ心もてなにかは露をたまとあざむく

古今集・恋
わがやどは道もなきまで荒れにけり つれなき人をまつとせしまに

古今集・恋
今こむといひてわかれし朝より 思ひくらしのねをのみぞなく