与謝の浦に老の波かず算へつるあまのしわざと人も見よとぞ
かすみがき立てたることもなき人の流れての世のしるしなりけり
うちわたし岸べは波にやぶるとも我名は朽ちじ天の橋立
耳に聞き目に見ることを寫しをきてゆく末の世に人にいはせん
新古今集・恋・小倉百人一首
由良のとを渡る舟人かぢを絶え行方も知らぬ恋の道かな
あり経じと嘆くものから限りあれば涙にうきて世をもふるかな
さかた川淵は瀬にこそなりにけれ水の流は早くながらに
八橋のくもでに物を思ふかな袖を涙の淵となしつつ
かきくらす心の闇にまどひつつ憂しと見る世にふるがわびしさ
今日かとも知らぬ憂き世を嘆くまにわが黒髪ぞ白くなりゆく
ささなみの長柄の山にながらへば心にもののかなはざらめや
類よりもひとり離れて飛ぶ雁の友におくるる我身かなしな
もろ小菅しげれる宿の草の葉に玉と見るまで置ける白露
のどかにもおもほゆるかな常夏に久しくにほふ山となでしこ
井手の山よそながらにも見るべきを立ちな隔てそ峰の白雲
あれば厭ふなければしのぶ世の中に我身ひとつはありわびぬやは
澤田川流れて人の見えこずはたれに見せまし底の白玉
草繁み伏見の里は荒れぬらしここにわが世の久に経ぬれば
花薄ほに出でて人を恋ふるかなしのばむことのあぢきなければ
飛ぶ鳥の心は空にあくがれて行方も知らぬものをこそ思へ
藻屑焼く浦にはあまやかれにけん煙立つとも見えずなりゆく
故郷はありしさまにもあらずとかいふ人あらば問ひて聞かばや
野飼せし駒のはるよりあさりしに尽きずもあるかな淀の若菰
かひなくて月日をのみぞ過しくる空をながめて世をし過せば
詞花集・恋
播磨なる飾磨に染むるあながちに人を恋しと思ふころかな