けふよりはなごしの月になりぬとて荒ぶる神にもの馴るな人
かくばかり草葉もなべてわかけれどあらはに置ける浅茅生の露
かこはねど蓬のま垣夏来ればあばらの宿をおもがくしつつ
里遠みつくる山田のみもりすと立てるそをづに身をぞなしつる
新古今集・恋
蚊遣火のさ夜ふけがたの下こがれ苦しやわが身人知れずのみ
夏はぎの麻のおがらとあだ人の心軽さといづれまされり
懲りなしに夜はまみゆる夏蟲の昼のありかやいづくなるらん
なが日すらながめて夏を暮すかな吹きくる風に身をばまかせて
ささら波たちてぞきつる水の綾を夏の河原の涼みがてらに
わがせこが夏の夕暮みえたらば涼しきほどに一日寝なまし
うとまねどだれも汗こき夏なればま遠に寝とや心隔つる
燃ゆれども煙も立たぬ夏のひのあつさぬるさを忍びてぞふる
わぎもこが隙もなくおもふねやなれど夏の昼まは猶ぞ臥し憂き
年ふれば老ひぬる人のしら髪を夏も消えせぬ雪かとぞ見る
荻の葉に風のそそ吹く夏しもぞ秋ならなくにあはれなりける
入日さしいつしか夏の日も暮れぬ紐うちとけてひとひ寝べきを
後拾遺集
来て見よと妹が家路に告げやらんわがひとり寝る床夏の花
夏川の瀬々に鮎とるますらをはわがうき影をみづからぞ見る
わぎもこが汗にそぼつる寝たわ髪夏のひるまはうとしとや見る
下紅葉秋も来なくに色づくは照る夏のひにこがれたるかも
夏の池の水の面隠す蓮葉にただよふ露の身をいかにせん
妹とわれねやの風戸にひるねして日高き夏のかげを過さむ
隙もなく茂れる夏の山路かな明けぬに越ゆる心ちのみして
詞花集・夏
蟲の音もまだうちとけぬ草むらに秋をかねてもむすぶ露かな
入日さし蜩の音を聞くなべにまだきねぶたき夏の夕暮
夏ばかり賀茂の河原に過してんふるさと人は心置くとも
ゆく道をあやなくまだきとまるかな蜩の音はさだめなき世を
むらどりの浮きてただよふ大空をながめしほどに夏は暮しつ