和歌と俳句

常夏 撫子 石竹

貫之
とこなつの 花をし見れば うちはへて 過ぐす月日の 数もしられず

古今集 躬恒
ちりをだにすゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹とわが寝るとこなつの花

後撰集 よみ人しらず
人知れずわがしめし野のとこなつは花さきぬべき時ぞきにける

後撰集 よみ人しらず
常夏の花をだに見ばことなしにすぐす月日もみじかかりなん

後撰集 よみ人しらず
常夏に思ひそめては人しれぬ心の程は色に見えなん

後拾遺集 中納言定頼
とこなつの匂へる庭はから國におれる錦もしかじとぞ見る

後拾遺集 能因法師
いかならむこよひの雨にとこなつの今朝だに露のおもげなりつる

後拾遺集 曾禰好忠
きてみよと妹が家路につげやらむわれひとりぬるとこなつの花

千載集 中務卿具平親王
とこなつの花をわすれて秋風を松の陰にてけふは暮れゐる

新古今集 高倉院御歌
白露の玉もて結へるまさのうちに光さへ添ふとこなつの花

俊恵
手にならす あふぎの風に あやなくも 露ぞ零るる 常夏の花

俊恵
朝夕の わが袖ふりに ゐるちりは 妹うち払へ 常夏の花

俊成
庭のおもの苔路のうへに唐錦しとねにしけるとこ夏の花

芭蕉
酔て寝むなでしこ咲る石の上

子規
下つけの なすのの原の 草むらに 覚束なしや 撫子の花

子規
草茂み なすのの原の 道たえて 撫し子さけり 白川の関

白秋
湯上りの 好いた娘が ふくよかに 足の爪剪る 石竹の花

晶子
露置きてくれなゐいとど深けれど思ひ悩める撫子の花

月よりも夏の灯強し撫子に 草城

常夏や軋りて止る貨物汽車 草城