和歌と俳句

万葉集・巻五
松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ

旅人
隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の滝になほしかずけり

浮鮎をつかみ分けばや水の色 才麿

鮨桶やまだ石走る滝津鮎 才麿

又やたぐひ長良の川の鮎なます 芭蕉

夕暮は鮎の腹見る川瀬かな 鬼貫

飛鮎の底に雲ゆく流かな 鬼貫

石垢に猶くひ入や淵の鮎 去来

鮎くれてよらで過行夜半の門 蕪村

我井戸に桂の鮎の雫かな 召波

時鳥一尺の鮎串にあり 子規

酒旗高し高野の麓鮎の里 虚子

晶子
なでしこや阿武隈川の石原に鮎なますすと氷くだきぬ

ふるさとや厩のまどの鮎の川 蛇笏

鮎漁のしるべも多摩の床屋かな 蛇笏

囮鮎ながして水のあな清し 蛇笏

山の色釣り上げし鮎に動くかな 石鼎

夜に入りて心やすさや鮎をやく 石鼎

めづらしやしづくなほある串の鮎 蛇笏

鮎を焼く煙上げたる小家かな 石鼎

鮎の宿戸障子とばす風の吹く みどり女

鮎掛や前山昃る一と嵐 橙黄子

峡深く旗じるしせし鮎の宿 誓子

茂吉
山つみの目に見えぬ神にまもられて吾ら夕餉の鮎くひにけり

鮎釣や降り照る笠をかぶりきり 花蓑

その中にあがる朱竿や鮎の渓 爽雨

二三点鮎とぶ君がほとりかな 普羅

鮎とぶや水輪の中の山の影 秋櫻子

牧水
ふるさとの日向の山の荒渓の流清うして鮎多く棲みき

牧水
鮎つりの父が憩ふは長き瀬のなかばの岸の榎の蔭なりき

牧水
幼き日釣りにし鮎のうつり香をいまてのひらに思ひ出でつも

牧水
釣り暮し帰れば母に叱られき叱れる母に渡しき鮎を