和歌と俳句

原 石鼎

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初夏や蝶に眼やれば近き山

下り立ちて目あまる岩や夏山家

道なかに蝶逆下りし夏山家

藁屋根に染まりて崖の若葉かな

銅蓮のあふるる水へ若葉

若柴に山背風吹きちる日となりぬ

短夜や梁にかたむく山の月

苗杉に枯色見ゆる梅雨入かな

遇ふ人ごとみな旅人や梅雨入山

五月雨や筏つなぎし槻の幹

黒栄に水汲み入るる戸口かな

梅雨の水ひびき流るる山路かな

梅雨はれや雲たち騒ぐ杉檜山

五月雨のひびきばかりや古山家

苔の香や午睡むさぼる杣が眉

よき河鹿痩せていよいよ高音かな

深山田に雲なつかしや早苗時

山風に闇な奪られそ灯取虫

この山を夜すがらまもり雨蛍

提灯をが襲ふ谷を来り

瀬をあらび堰に遊べる かな

山風の谷へ火ながき蛍かな

月さすや谷をさまよふ蛍どち

谷の辺に小さき厠や夏の月