和歌と俳句

橋本多佳子

歌かるたよみつぎてゆく読み減らしゆく

敵のかるた一つの歌がわが眼索く

羽子の音つよし竹のさわげる風の中

つまづきし如く忘れし手毬歌

息かくる一と羽一と羽と羽子蘇きる

突き了へて羽子を天より掌に享くる

暮れてゆくひとつの独楽を打ちにうつ

オリオンの盾新しき年に入る

白羽子に息かけ童女斜視になる

独楽舐るいま地に鞭うちゐしを

独楽舐る鉄輪の匂ひわれも知る

枕辺に揚げざる凧と突かざる羽子

われとあり天を知らざるわが凧よ

凧・独楽・羽子寄りあふわれと遊ばずば

独楽とあそぶ壁に大きな影おいて

独楽あそび手窪のごとき地を愛し

頭をふつておのれ止らぬ勢ひ独楽

何の躊躇独楽に紐まき投げんとして

掌にまはる独楽の喜悦が身に伝ふ

掌に立ちて独楽の鉄芯吾をくすぐる

寝正月夢湧きつげば誰より贅

寝正月鶲を欲れば鶲来る

わが起居に眼をみはるもの奴凧

りんりんたる白破魔矢に鏃なし

白破魔矢武に苦しみし神達よ

羽のみだれ正す破魔矢に息かけて

わが寝屋の闇の一角白破魔矢

養身のほとりにつよく破魔矢おく

日向ゐて影がまつくら手毬つく

羽子つよくはじきし音よ薄羽子板