和歌と俳句

橋本多佳子

公卿若し藤に蹴鞠をそらしける

春潮のさむき海女の業を見る

若布は長けて海女ゆく底ひ冥かりき

若布の底に海女ゐる光り目をこらす

火の山の阿蘇のあら野に火かけたる

天ちかきこの大野火をひとが守る

旅を来し激戦のあととび

草青く戦趾に階が残りたる

春暁の靄に燐寸の火をもやす

春日没り塩田昏るる身のまはり

閼伽汲むと春の日中に井を鳴らす

雪山に野を界られて西行忌

翁草野の枯色はしりぞかず

暁けて来るくらさ愉しくとゐる

雪白きしなのの山山来る

桜散るしなのの人の野墓よき

野のはひくきより垂り吾に垂る

燈ともしてはうつむく花多き

二月の雲象かへざる寂しさよ

かぎろへる遠き鉄路を子等がこゆ

春月の明るさをいひ且つともす

入学の一と月経たる紫雲英

山吹の黄の鮮らしや一夜寝し

吾去りて山は蚕飼の季むかふ

来ぬ山家の障子真白に

来し方や昏き椿の道おもふ

子とあれば吾いきいきと初蛙