和歌と俳句

原 石鼎

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元朝の宿を出でたつ網頭

元日の軒に遊べる漁師かな

本の上に蜜柑の皮や松の内

元日や軒深々と草の庵

うつり出る天なる水や初鴉

日の辻に影落し去れり初鴉

大霜に夜明くる森や初鴉

元日の一雀躍り庭の面

元日の空青々と淋しけれ

元日の夜もたのしや飾海老

初空や宮灯らねば只の山

数の子や戸棚あくれば直ぐ見えし

伊勢よりも出雲恋しやお元日

お篝を杉にあなどり初鴉

竈火のどろどろ燃えて初御空

初空を映す磧や細り水

打ちあげし羽子翻るとき日の光

つきあげし羽子の白さや風の中

外れ羽子の斜にとんで風の中

遣羽子の聊かの色を好みけり

裏返るもありてかるたのなまめかし

福寿草今年は無くて寝正月

松上にしばし曇りし初日かな

神棚に見えて居るなり歯朶の先

白羽子の二とこ揚り塀の内

芯の赤見えずなりたるかゝり羽子

霜つよき芝生を構へ松の内

草庵や屠蘇の盃一揃

折蝶の髭の見事や屠蘇一器

萬歳の戸口を明けて這入りけり

初凪の空の光りを芝生より

初凪の潮の干満にくれにけり

遣羽子や下駄の歯高く夕べ出て

元日やをりをり騒ぐ風の音

ゆめもなく覚めたる軒の初日かな

初御空尊きまでにうち晴れて

入口の枯木に立つや山始

大枯木枝卸しある今年かな

天地をいたはりみるや去年今年

枯れ乾く尾花なほある初日かな

初凪や人出でて居る午さがり

注連の明け句会の蜜柑美しき

縢終へん糸一すぢにころげ

ころげみつめぬとまるところまで

もろもろの小鳥来る日や縁に羽子

新しき家に句会や三ヶ日

松過ぎていまだ出でみぬ戸口かな

松過ぎやかんらかんらと霜の道

松過ぎの買物とどく玄関かな

松過ぎの晴れきはまりて凧一つ