和歌と俳句

元日

元日の軒に遊べる漁師かな 石鼎

晶子
元日やうす紫を着たる膝われとも見えず春の空かや

晶子
遠方に船の笛鳴る元日のたそがれ時に君へ文書く

晶子
家なるも外なる音も元日は皆なつかしと思ひぬるかな

晶子
うす白き門の口見ゆ元日のわがつれづれに障子明くれは

元日や軒深々と草の庵 石鼎

元日の一雀躍り庭の面 石鼎

元日暮れたりあかりしづかに灯して 放哉

元日の空青々と淋しけれ 石鼎

伊勢よりも出雲恋しやお元日 石鼎

元日や柳さくらの舞扇 万太郎

枯葉鳴る静かさに居りお元日 亞浪

懇ろに母とはなりぬお元日 かな女

元日や入日に走る宇治の水 水巴

元日やお茶の実落ちし夕明り 水巴

元日やゆくへのしれぬ風の音 水巴

虚子庵のいつもの部屋やお元日 たかし

正しくも時の歩みやお元日 たかし

牧水
元日の 明けやらぬ部屋に 燈火つけ ただに坐りゐて 心つつまし

牧水
わが家は 松原の蔭 松に棲む 鴉なき出でて けふは元日

元日や酒にみせてもめでたしと 喜舟

そうび咲く壺に元日しづかなり かな女

旅にある心安さよお元日 淡路女

元日の田ごとの畦の静かな 青畝

大利根に漕ぐ船もなしお元日 淡路女

元日や旅のめざめに濤の音 秋櫻子

元日やをりをり騒ぐ風の音 石鼎

温泉に来て元日を遊びけり 淡路女

すこし早く起きてさむかりお元日 亞浪

元日や枯草の鳴る風の音 淡路女

元日や向島まで川蒸汽 喜舟

鶯の庭の音なりお元日 かな女

元日の日のさしにけり我が家にも 淡路女

元日や庭にさかりの枇杷の花 石鼎

霽れて<元日の水がたたへていつぱい 山頭火

けふは休業の犬が寝そべつてゐる元日 山頭火

幾何を描く児と元日を籠るなり しづの女

元日やまばゆきまでに客座布団 石鼎

元日の夕日もまこと荘厳に 石鼎

元日もはや燈が見えて夕焼雲 石鼎

元日や隅田の宿の枯柳 万太郎

元日ののしづけさに来て触れぬ 楸邨

白秋
弟どもが 酒に吼ゆるを 寿詞とも 元日は聴け 日もかたむきぬ

元日の石蕗にすさべり伊豆の海 亞浪

元日の島の子甘蔗を噛めるのみ 爽雨

元日や枯野のごとく街ねむり 楸邨

元日の灯をともしマリヤあでやかに 青邨

元日のマリヤの灯老の杖照らす 青邨

臘涙しげく元日のマリヤさま 青邨

マリヤ拝み人々新たなる年を 青邨

松青く垂れし元日の林泉に入る 秋櫻子

元日の林泉しづかなり鳴くは鵯 秋櫻子

元日の昼過ぎにうらさびしけれ 綾子

元日の殺生石のにほひかな 波郷

元日の雪に乾パンを頒けこぼす 桃史

元日の出る日も富士へしづむ日も 石鼎

元日の港しづかに鴨ながる 秋櫻子

喪にこもり元日の声を四方に聴く 信子

喪にこもり元日の陽を7わが膝に 信子

元日の樹々あをあをと暮れにけり 信子

元日の獄や歩まぬけふ昏れて 不死男

海苔拾ふ元日の脛波立たす 不死男

元日の顔洗ひをり不寝番 波郷