和歌と俳句

富士山

子規
山々の 錦のきぬの あはひより 雪の皃出す 富士の頂

漱石
見つつ行け旅に病むとも秋の不二

子規
名だにとふ 人こそなけれ 世の中に まがふかたなし ふじの高ねは

晶子
駿河の山百合がうつむく朝がたち霧にてる日を野に髪すきぬ

晶子
しろ銀の魚鱗の上に富士ありぬ相模の春の月のぼる時

牧水
富士よゆるせ 今宵は何の 故もなう 涙はてなし 汝を仰ぎて

牧水
凪ぎし日や 虚の御そらに ゆめのごと 雲はうまれて 富士恋ひて行く

牧水
雲らみな 東の海に 吹きよせて 富士に風冴ゆ 夕映のそら

牧水
雲はいま 富士の高ねを はなれたり 据野の草に 立つ野分かな

牧水
赤々と 富士火を上げよ 日光の 冷えゆく秋の 沈黙のそらに

牧水
一すぢの 糸の白雪 富士の嶺に 残るが哀し 水無月の天

晶子
青き富士うすきが下に雲ばかりある野の朝の風に吹かるる

千樫
霧はるる木立のうへにうす藍の富士は大きく夜はあけにけり

千樫
富士が嶺を深くつつめる雨雲ゆ雨はふるらしこの夜しづかに

千樫
むらさきの夕かげふかき富士が嶺の直山膚をわがのぼり居り

千樫
七合目の室のあかりを見すぐしてなほのぼり行く暮れわたる富士を

千樫
あかときの星かがやきてくろぐろと富士のうただき目の上に見ゆ

白秋
不尽の山 れいろうとして ひさかたの 天の一方に おはしけるかも

白秋
ほがらかに 天に辷りあがる 不尽の山 われを忘れて わがふり仰ぐ

白秋
垂乳根の せちに見むといふ 不尽の山 いま大空に あらはれにけり

白秋
大方に うれしきものを 不尽の山 わが家のそらに 見えにけるかも

白秋
駿河なる 不二の高嶺を ふり仰ぎ 大きなる網を さと拡げたり

蛇笏
ある夜月に富士大形の寒さかな

牧水
なだらかにのびきはまれる富士が嶺の裾野にも今朝しら雪の見ゆ

牧水
浪の間に傾き走るわが船の窓に見えつつ富士は晴れたり

牧水
海かけて霞みたなびくむら山の奥処に寒き遠富士の山

牧水
雲まよふ 梅雨明空の いぶせきに 暁ばかり 富士は見らるる

牧水
紫に 澄みぬる富士は みじか夜の 暁起きに 見るべかりけり

牧水
陰ふくみ 沸き立ち騒ぐ 白雲の いぶせき空に 富士は籠れり

牧水
叢雲の いただき見する 愛鷹の 峰の奥ぞと 富士を思へり

牧水
夏雲の 垂りぬる蔭に うす青み 沼津より見ゆ 富士の裾野は

石鼎
や富士を歪めて昼の空

石鼎
庭に干す蒲団の上や雪の富士

石鼎
雪の富士鏡の如き小春かな

牧水
冬寂びし愛鷹山のうへに聳え雪ゆたかなる富士の高山

赤彦
富士が根はさはるものなし久方の天ゆ傾きて海に至るまで

石鼎
晴れむとてむらだつ雲や雪の富士

虚子
初冨士や双親草の庵に在り

虚子
初冨士や草庵を出て十歩なる

虚子
初冨士を見て嬉しさや君を訪ふ

万太郎
小春富士夕かたまけて遠きかな

白秋
天つ辺にただに凌げば不二が嶺のいただき白う冴えにけるかも

白秋
不二ヶ嶺は七面も八峰もつむ雪の襞ふかぶかし眩ゆき白光

白秋
雪しろき不二のなだりのひとところげそりと崩えて紫深し

白秋
不二ヶ嶺はいただき白く積む雪の雪炎たてり真澄む後空

白秋
笠雲の昨夕見し不二のいちじるく寒けかりしか今朝のましろき