和歌と俳句

久保田万太郎

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末の子を寝かしつけたる蒲団かな

親と子のちぎり一世の蒲団かな

煤掃やこの四五日の曇り癖

不忍や年の夜をある根津の闇

短日や塗りあがりたる壁の色

短日のみすみす無理な話かな

挽きかけてある木ばかりの寒さかな

河豚くうておそろしくなりし月の色

筆深く下して使ふくせ霜夜

山茶花にあかつき闇のありにけり

浅草の塔のすがたも師走かな

日暮里へ師走のみちのつゞきけり

冬構打出の濱のとある家

石段にうすき月さす冬夜かな

仮越のまゝ住みつきぬ石蕗の花

天ぷらをくふ間にはれししぐれかな

短日やすでに灯りし園の中

水戸さまの裏の小梅や年の暮

明けはなれゆく夜のかげや酉の市

枯野みち帝釈道とありにけり

汐入の池の名残も枯野かな

小春富士夕かたまけて遠きかな

しぐるゝや梢々の風さそひ

下りかへすとき石段の寒さかな

つぐや浪花のやどり宵浅く