和歌と俳句

久保田万太郎

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七夕や皆妓となる舞の友

七夕や駅も浦なる波の音

天の川湖に波なき葎かな

深川の小さき寺や墓参

追分に人とわかれて墓参

送火をたく隣あり萩の闇

送火や草山蔭の家二軒

花火ある夜の闇深し妹が門

浦浪も花火も淋し穂葦吹く

門前に出茶屋の松の残暑かな

秋出水千住は古き驛かな

越後屋に昔勤めし夜長かな

のちる日もはれがまし小梅町

暁のどの峰低しの中

母と住むわが世は古し蟲の聲

放生会蓮の茶店の旅人かな

大船に住ひて汐の初めかな

初汐や由良の湊の呉服店

秋風や鳥居の外はたゞの道

秋の暮の人にぎはひぬ浅草寺

縁下や萩の暮れゐる秋の雨

舟人や江戸深川の濁り酒

庭草の紅葉に放つかな

白菊にもみづる草のあはれかな

大寺の築土の野菊摘みにけり

桑畑に夕澄む野菊憐みぬ

いとはるゝ身を打更けしかな