和歌と俳句

野菊

なでしこの暑さわするる野菊かな 芭蕉

重箱に花なき時の野菊哉 其角

十日にはまさりかほなる野菊かな 千代女

なつかしき紫苑がもとの野菊哉 蕪村

紫に似ずてゆかしき野菊かな 几董

九日も知らぬ野菊のさかり哉 子規

野菊折る手元に低し伊豆の嶋 子規

石原にやせて倒るる野菊かな 子規

大寺の礎残る野菊かな 子規

野菊ちらほら先妻の墳墓荒れたりな 虚子

道の辺や荊がくれに野菊咲く 子規

馬の子と牛の子と居る野菊かな 漱石

野菊一輪手帳の中に挟みけり 漱石

利玄
野菊一むら水をおほへるいさら川ささやき細く野は暮れにけり

左千夫
秋草のいづれはあれど露霜に痩せし野菊の花をあはれむ

荷を投げて休む山路の野菊かな 虚子

秋立つとおもふばかりをわが宿の垣の野菊は早咲きにけり 左千夫

檜扇の丹づらふ色にくらぶれば野菊の花はやさしかりけり 左千夫

憂さ晴れてそぞろに行けば野菊かな 碧梧桐

千樫
よき友にたより吾がせむこの庭の野菊の花ははや咲きにけり

大寺の築土の野菊摘みにけり 万太郎

桑畑に夕澄む野菊憐みぬ 万太郎

湯壷から首丈出せば野菊哉 漱石

頂上や殊に野菊の吹かれ居り 石鼎

杣が戸に霧降りかかる野菊かな 石鼎

谷水を汲む桶二つ野菊かな 石鼎

栗の毬より野菊咲き出し山路かな 泊雲

牧夫来れば牛皆動く野菊かな 橙黄子

利玄
遠くあそびしみじみかへる夕冷えに淡色さゆるみちのべ野菊

咲きほそめて花瓣するどき野菊かな 久女

わが傘の影の中こき野菊かな 久女

野菊折るやうちみる早瀬夕焼けて 蛇笏

野菊はや咲いて露けし墓参道 久女

墓の前の土に折りさす野菊かな 久女

我寝息守るかに野菊枕上 久女

目ひらけば揺れて親しき野菊かな 久女

野菊やや飽きて真紅の花恋へり 久女

腰折りて水覗き見し野菊かな みどり女

よりそひて老い花しげき野菊かな 石鼎

なきながら家鴨流るゝ野菊かな 石鼎

手のぬくみ野菊の瓣に及ぼしぬ みどり女

牧水
山路なる野菊の茎の伸びすぎて踏まれつつ咲けるむらさきの花