和歌と俳句

河東碧梧桐

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嬉しがる声の中芋畑を行く影したり

曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空

又隣のドラ声の夕べの真ツ白な

子規十七回忌の子供の話婦人達とおほけなく

稲が黄に乾いて踵の泥がイヤにくつゝいて

葛の花が落ち出して土掻く箒持つ

一葉一葉摘む桑の阿武隈芒

家が建つた農園のコスモスはもう見えない

長良川落鮎の水の顔がほてつて

航海日誌に我もかきそへた瓶の撫子

赤土のなだれの女郎花咲く窓べ

牧場から来た女の穂芒に吹かれ行く

稲の秋の渡し待つてゐるどれも年寄りと話す

木の間に低く出たを見て戸を引いてしまふ

散らばつてゐる雲の白さの冬はもう来る

中庭の柑子色づき来ぬ藁二駄おろす

野茨の実をつむ人のつみあかずゐる

西瓜船の酒菰のまゝ秋になるいく日を過ごす

干し残るゆふべの藻屑尾の白き蜻蛉のゆきぬ

壁土を捨てた雨の湿りのこほろぎの出る

諏訪神社並木の松は芒萱原

瓦燈口あかき見ゆるや星月夜

星月夜狼火にあらぬ稲妻す

むら薄似し墓あるに詣りけり

草ぬいて早や暮るゝ日の墓参かな

門跡に我も端居や大文字

海の月花火彩どる美しき

稲妻の光る花火の絶間かな

や道程を聞く二里三里

箒木は皆伐られけり芙蓉咲く

木槿さく畑の径や木幡山

紙漉きの恋に咲きけり鳳仙花

蓼の花草末枯れて水白し

古里に唐門あるや芭蕉寺

灯ともすや野分止む頃戻る船

ひもらぎの莚の露や三日の月

寝る時の湯浴静かに夜長かな

芒絶て茅の穂交り花野かな

芒谷下りて果なき花野かな

果なしの野に立つ日暮れけり

江ノ島に茫々として芒かな

芝青き中に咲きたつ桔梗かな