和歌と俳句

四五本の竹をあつめて月夜哉 漱石

江差までの追手こそ峰蹴上げ月 碧梧桐

月さすや伐木乱雑に山の窪 石鼎

葛堀し家のほとりや山の月 石鼎

山の月さすや閂せゝこまし 泊雲

円い月がぽかと出て対岸灯し初めし 山頭火

窓の月に頤突き出して聖かな 泊雲

月さして人影もなし谷の橋 石鼎

赤彦
山門の大扉の下に立つ我の息こそ見ゆれ更くる月夜に

いづこより月のさし居る葎哉 普羅

月の人動く川尻の家居かな 普羅

詩にすがるわが念力や月の秋 蛇笏

甲斐の夜の富士はるかさよ秋の月 蛇笏

積材に月の明さや峠茶屋 石鼎

灯を消すや障子の裾に及ぶ月 みどり女

友は立ちて我は屈みて月の門 みどり女

月高し池舟あがる石だたみ 蛇笏

秋月や魂なき僧を高になひ 蛇笏

草木慟哭昇れる月の赤さかな 茅舎

とび石を踏みも外さず月夜人 石鼎

月さすや影の倒るゝ太柱 喜舟

月さすやいにしへ塗りし仁王の朱 喜舟

靄中に影作りゐぬ月の桐 花蓑

木蔭より耳門入る月の寺 花蓑

風の樹々月振落し振落し 花蓑

月の光友減り減りて澄み来たり 水巴

ものの影みな涅槃なる月夜かな 水巴

雲の中の明るさうれし月を待つ みどり女

母にからみて月の二階を下りにけり みどり女

母遂に上り来ず月の二階かな みどり女

下町の大火の上の秋の月 石鼎

月を来し犬咬へゐし人の骨 石鼎

月の道折りかへさむと友の影 青畝

逍遥す昼といふべき月の道 青畝

木の間に低く出た月を見て戸を引いてしまふ 碧梧桐

戸を閉むや月のよければひとり言 淡路女

茂吉
しづかなる峠をのぼり来しときに月のひかりは八谷をてらす

茂吉
たまくしげ箱根の山に夜もすがら薄をてらす月のさやけさ

出航や忽ち騒ぐ月の潮 草城

船の名の月に読まるる港かな 草城

荒海や沈みかねたる月一つ 草城

瀬頭や月に盛り上がり盛り上がり 草城

月光も心の疵にしむ夜かな 草城