和歌と俳句

竃馬 いとど おかまこおろぎ

海士の屋は小海老にまじるいとど哉 芭蕉

いとど鳴猫の竃にねむるかな 鬼貫

啼やいとど塩にほこりのたまる迄 越人

竈馬や行灯につりしとうがらし 白雄

啄木
いとど鳴く そのかたはらの石に踞し 泣き笑ひしてひとり物言ふ

茂吉
秋づける丘の畑くまに音たえて昼のいとどはかくろひいそぐ

憲吉
宵あさく障子あけ居れば端ちかき白き小床にいとど上るも

憲吉
床にくるいとどはいまだうら若し小床の皺をのべてかなしも

赤ときやいとど鳴きやむ屋根のうら 龍之介

壁の崩れいとどが髭を振つてをり 亞浪

やがて又鳴き出す蟲はいとゞかな 立子

一ト跳びにいとどは闇へ皈りけり 草田男

背に腹に竃馬とびつく湯殿かな 茅舎

いとど一つふとき声して夜なかなる 石鼎

灯の下のいとどとあそぶ読み疲れ 楸邨

夜をかけてわが句売りたるいとどかな 波郷

夜の髪に跳来ていとどもつれけり 波郷

妻寄れば昼のいとどに跳ばれけり 波郷

いとど赤しほのぼの熱の上るとき 波郷

昼出でていとどが赤し熱の中 波郷

壁穴のいとども加へ聖家族 静塔

いとどの辺賜ひし酒を今も酌む 波郷

夫婦古りぬ髭振るいとど中にして 林火

いとど跳ぶ古き厩の馬の鞍 悌二郎

大炉二つひとつ使はず竃馬跳ぶ 悌二郎