和歌と俳句

篠田悌二郎

透きて妖し月下の門の雁来紅

秋冷やか生の殻剥ぐ車海老

きりぎりすいなさ白波松の上に

初嵐干しし水着を奪らんとす

怒濤音砂丘の虫の声揺らす

ま近にて遠きひとをり虫の闇

よべ出来し風紋に秋の朝日影

咲くや回せばまはるかせ車

いとど跳ぶ古き厩の馬の鞍

秋蝉や嬶座うしろの簀衝立

蟋蟀蚕部屋へのぼる急梯子

大炉二つひとつ使はず竃馬跳ぶ

牡丹植う蕾む小菊もさりながら

残る虫またの声待つ時化の浜

錆び古りし碇を祀る海桐の実

枸杞の実や海の荒凉一瞥後

蛸壺の野積み網はる芦の花

己枯れ蛸壺蔽ふ藪枯らし

暮秋の波止傷つき帰へる船繋ぐ

秋の暮あふぐや鳶の翼のうら

野分あと大鳶一羽磯歩む

廃船の十月末の虫のこゑ

気配すらなくて漁村の秋祭

燈がもれて今誰か居る蜜柑小屋