和歌と俳句

秋の暮

工場出る爪むらさきに秋の暮 三鬼

禽獣の國出て秋の暮に会ふ 林火

驢馬よ曳けとはげます声の秋の暮 汀女

磧にも道一筋や秋の暮 汀女

秋の暮川の向うに子守唄 不死男

人めなき露地に住ひて秋の暮 万太郎

秋の暮じつとみる手の白きかな 万太郎

何事も胸にをさめて秋の暮 万太郎

拝みしをまぼろしかとも秋の暮 秋櫻子

赤き青き生姜菓子売る秋の暮

小屋ありて爺婆ひそむ秋の暮

渚来る胸の豊隆秋の暮 三鬼

秋の暮大魚の骨を海が引く 三鬼

病む美女に船みな消ゆる秋の暮 三鬼

船でゆく人に山羊鳴く秋の暮 立子

たびびとに子を取る遊び秋の暮 林火

ねりあめでつながる駄菓子秋のくれ 静塔

病室のあけくれなれど秋の暮 万太郎

秋の暮ひそかに猫のうづくまる 万太郎

月いまだ山をでて来ず秋の暮 万太郎

火の色の美しかりし秋の暮 立子

枝折戸にきえし日ざしや秋の暮 万太郎

灯のともるまでのくらさや秋の暮 万太郎

君一人我も一人や秋の暮 立子

女男坂もろともに昏れ秋の暮 波郷

秋の暮藪に山陰線の煙 林火

人の行く方へゆくなり秋の暮 林火