和歌と俳句

秋の暮

はたとわが妻とゆき逢ふ秋の暮 楸邨

秋の暮東叡山は門多し 青邨

道ひろく村の子遊ぶ秋の暮 風生

ひかる軌道草蒸す軌道秋の暮 誓子

剽盗に逢ひて湯屋出づ秋の暮 友二

旅に出て己はひとり秋の暮 占魚

帰る家まざと頭に秋の暮 波郷

熱の目にしばし草木や秋の暮 波郷

水色は発破かけてる秋のくれ 波郷

なほさきの燈の浜いづこ秋の暮 誓子

廚妻けふも薄暮より秋の暮 誓子

秋の暮行けば他国の町めきて 誓子

叱りたる母のしりへに秋の暮 誓子

子を叱つて母たのしまず秋の暮 誓子

貨物汽車只一燈の秋の暮 誓子

真南に駅の燈遠き秋の暮 誓子

秋の暮道にしやがんで子がひとり 誓子

常夜燈昔むかしの秋の暮 誓子

自転車を乗り習ふうち秋の暮 誓子

秋の暮金星なほもひとつぼし 誓子

秋の暮真黒き獣道塞ぐ 誓子

牛の眼の繋がれて見る秋の暮 誓子

秋の暮山脈いづこへか帰る 誓子

日のくれと子供が言ひて秋の暮 虚子

秋の暮遠きところにピアノ弾く 三鬼

じわじわと煙のにほふ秋の暮 草城

誰が笛かおぼつかなさよ秋の暮 草城

ひややかな空気が動く秋の暮 草城

秋の暮そよがずなりし木の葉冷ゆ 草城

暮れそめてはつたと暮れぬ秋の暮 草城

焼け残る防火壁より秋の暮 楸邨

八方に石のごとき目秋の暮 楸邨

雨の日はことにさびしや秋の暮 虚子

子をあやす行く舟見せて秋の暮 汀女

熱の口あけて見てをり秋の暮 波郷

秋の暮鷄はいつまで白からむ 信子

秋の暮蟻に与ふる物もなく 耕衣

秋の暮水原先生もそこにゐき 波郷

秋の暮洩罎泉のこゑをなす 波郷

人波にしばしさからひ秋の暮 汀女

秋の暮笑ひなかばにしてやめぬ 林火

レールの艶我等の秋暮貫きて 静塔

潮ざゐや相模の国の秋の暮 石鼎

青淵はすでに霧立つ秋の暮 秋櫻子

夢さめておどろく闇や秋の暮 秋櫻子

鉄骨のかこむ空間秋の暮 誓子

マンホールの底より声す秋の暮 楸邨

炉の鉄に日の色満ち来秋の暮 楸邨

胸先にくろき富士立つ秋の暮 多佳子

新煉瓦積めばとつぷり秋の暮 静塔

苔寺を出てその辺の秋の暮 虚子

菩提樹のカサカサの葉や秋の暮 耕衣

樹々黒く唇赤し秋の暮 三鬼

浅草の秋の暮はやみなぎる灯 爽雨

工場出る爪むらさきに秋の暮 三鬼