和歌と俳句

桂信子

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梅雨の夜のひとづまならぬわが熟睡

夜よりも昼のはかなき梅雨の寡婦

絢爛とひとに訪はれし梅雨の寡婦

夏雲や夢なき女よこたはる

緑蔭に蟻の一日ながかりき

子をもたぬ女のひけめ緑蔭

誰がために生くる月日ぞ鉦叩

黒蝶や薬をのみし舌にがく

黒蝶や香水つよきひとゝゐて

母老いてパン喰みこぼす秋の灯に

秋風や母のうしろの生駒山

木鋏の音はつきりと野分去る

すゝき原水なき川を月照らす

すゝき野に肌あつきわれ昏れむとす

秋の土鷄のみつむるもの動く

秋の暮鷄はいつまで白からむ

大蛾息づけばわれも息づける

なくや見送るひともなくて出づ

男臥て女の夜を照らす

の斑や女さみしきまゝ臥たり

水の上の落葉や月の夜を沈む

枯木の股月の光を流すのみ

夜の霧に溝を流るる水絶えず

のこゑ遠ざかる夜の線路越ゆ

をきく敷布の皺をのばしつつ

かりがねや手足つめたきままねむる

大木の根元の冷えのひもすがら

通りすぎ心に触れし枯木あり

逢ふところまでいくたびも枯木過ぎ

ひとの掌の触るることなき枯野の石

冬の松日輪ひとつよるべなし

松の樹とわが荒れし掌に朝日射す

冬の川はなればなれに紙ながる

檻に鷲短日の煤地におちる

鷲動かず紙屑北風にさらはるる

鷲老いて胸毛ふかるる十二月

冬の鷲爪みじかくて老いにけり

寒夜鮮しこつぷに水を注ぐとき

霜柱牝鶏絶えず眸をうごかし

相たのむ母娘の影や寒に入る

寒風に牛叱るこゑのみ短か

牛歩み去り寒燈に糞のこす

寒の馬首まつすぐに街に入る

馬駈けて寒月光の道のこる

馬ゆきて馬の臭ひのぬくき冬

冬の犬糞まるに時を費さず

冬の犬呼ぶ声あればひたに駈く

寒月光夜もまがれる松の影

寒月光男女つれだち出づるこゑ

石上のしばらく月照らす