和歌と俳句

野村喜舟

雑煮腹安宅羅生門と謡ひけり

年賀客謡の中へ通しけり

青海波打越え来るや年賀状

薮入や母すこやかに梅の花

松の内酔中に事なかりけり

米まきに来し天神や初雀

二三日衣桁のかげの手毬かな

獅子舞の二人の足を見詰めけり

初鶏や彩羽躍つて臼の上

一切空赤く出でたる初日かな

抱一の版下にして宝舟

万歳の吹かれ来にけり天津風

双六やわが名ひとの名打重ね

羽子板や花の盛の道成寺

元日や酒にみせてもめでたしと

羽子板や羽織着せゐる梅暦

遣羽子や両隣から御内宝

羽子板や贔屓の外の羽左衛門

筆立の孔雀の羽根や老が春

寝正月せめて敷布の新しく

元日を煮えこぼるゝは雑煮かな

甃長々と来るかな

年玉や半紙手拭がさがさと

掃初やはたきの音を朗かに

飾海老日出づる国のめでたけれ

古車浅草紙を初荷かな

初空や武蔵に秩父晴れ渡り

初髪や一に詣でる観世音

鳥追やゆきゝの道の涙橋

薮入や二人のいもといつくしみ

薮入に梅の紅白咲きにけり

元日や向島まで川蒸汽

初日さす船場守りの観世音

初日さす鶏に菜を刻むかな

藪中の神厳かに恵方かな

真帆ゆくや七福神の隅田川

多聞寺の屋根の狸に御慶かな

若水や真先浴びる紅雀

蓬莱を枕上なる寝覚かな

蓬莱の千古のみどり掛けにけり

鴨の泥くさきを鴨の雑煮かな

羽子板や碇知盛恐しき

遣羽子や恋しり貌に打返し

万歳や佐渡より金の湧き貌に

万歳や雀驚く鶴の丸

元朝や阿弥陀をろがむ主にて

買初や鱈一本を鱈昆布に

隠居名の白猿襲ぎぬ二の替

南北の又棺桶や二の替

二の替世は心中のはやりかな