野村喜舟
麦畑をにらみゐるなり二日灸
木蓮は飛ぶ帆の如く散りにけり
立春や香煙とゞく絵天井
のどかさや艪を押す人のそるのめる
春の野に古石垣のずれにけり
野遊や口ついて出る唄の節
夢で逢ひし人に逢ひたる桜かな
春風や徐ろに欅伐り倒す
下ろし行く数の蔀や春の月
冠を正しまゐらす雛かな
壷焼の蓋おもしろき巴かな
白桃や青天へ皆のびし枝
石橋をつゝみて燃ゆる躑躅かな
磧来てやがて畑打つ人となりぬ
花の山上と下とで見染めけり
大原女の三人休む薊かな
金瓶梅うらゝかな顔で読みにけり
桜餅紅葉鏡花好み読む
世を怒る心花見に出でにけり