和歌と俳句

野村喜舟

黒樺に来てゐる春や雪なだれ

雪なだれ越後の国を崩すかな

鮒釣るに雪のちらつく二月かな

八幡の鳩の向き合ふ日永かな

淡雪や海苔の干場も汐入も

立雛や袴の銀のさびまさり

雲雀鳴く塩せんべいの草加かな

めし粒に馴るゝあはれや雀の子

白梅や香取鹿島を一日に

庚申の日の柴又のかな

夕桜鴉が来ても散りにけり

遠山もなき麦畑のかな

塩鰤も弥生尽なる片身かな

峰入は大仰な数珠をかつぎけり

や馬の草鞋の落し物

梅が香に麦の出来をぞ祈るかな

暖かに薦をとりやる金魚かな

古沼のあやかしもあんく温みけり

べんけいにささるゝ鮒や水温む

雛壇や還御待ちある御所車

澄む凧や浪に日の出のあざやかに

畠打俄かに一揆起しけり

風除けの樫に咲いたるかな

椢山木の芽は煙るばかりかな

夜もすがら瓦焼かるゝ土筆かな