黒樺に来てゐる春や雪なだれ
雪なだれ越後の国を崩すかな
鮒釣るに雪のちらつく二月かな
八幡の鳩の向き合ふ日永かな
淡雪や海苔の干場も汐入も
立雛や袴の銀のさびまさり
雲雀鳴く塩せんべいの草加かな
めし粒に馴るゝあはれや雀の子
白梅や香取鹿島を一日に
庚申の日の柴又の桜かな
夕桜鴉が来ても散りにけり
遠山もなき麦畑の菫かな
塩鰤も弥生尽なる片身かな
峰入は大仰な数珠をかつぎけり
燕や馬の草鞋の落し物
梅が香に麦の出来をぞ祈るかな
暖かに薦をとりやる金魚かな
古沼のあやかしもあんく温みけり
べんけいにささるゝ鮒や水温む
雛壇や還御待ちある御所車
澄む凧や浪に日の出のあざやかに
畠打俄かに一揆起しけり
風除けの樫に咲いたる桜かな
椢山木の芽は煙るばかりかな
夜もすがら瓦焼かるゝ土筆かな