和歌と俳句

日永 永き日

一葉
よの人は花にうかるる春の日のながきをひとり知るすまひ哉

あくびした口に花ちる日永哉 子規

鶯の根岸はなるゝ日永かな 子規

うたゝねを針にさゝれる日永哉 子規

斧の柄のいくたび朽ちて日永かな 子規

霞んだり曇つたり日の長さ哉 子規

永き日の滋賀の山越海見えて 子規

金比羅に大絵馬あげる日永哉 子規

鶏の築地をくづす日永かな 虚子

汽車道にならんでありく日永かな 子規

永き日や驢馬を追ひ行く鞭の影 子規

永き日の暮れんとすなり二月堂 子規

巡礼と野辺につれ立つ日永哉 漱石

川に添ふ一筋町の日永かな 虚子

飯くふてねむたくなりし日永かな 虚子

山寺に線香もゆる日永かな 虚子

藍流しながし村の日永かな 虚子

大船の尻振りかはる日永かな 虚子

永き日や韋駄を講ずる博士あり 漱石

日は永し三十三間堂長し 漱石

永き日を順礼渡る瀬田の橋 漱石

日永哉豆に眠がる神の馬 漱石

永き日や欠伸うつして別れ行く 漱石

踏めばゆらぐ一枚石の日永かな 虚子

金泥もて法華経写す日永哉 漱石

永き日を遠巻きにする軍かな 虚子

永き日の尺を織りたる錦かな 虚子

永き日や雑報書きの耳に筆 子規

永き日を太鼓打つ手のゆるむ也 漱石

蓑掛けし病の床や日の永さ 子規

子規
山近くいほり結びて永き日をただ山を見る人となるべく

鞭つて牛動かざる日永かな 漱石

子規
詩人去れば歌人坐にあり歌人去れば俳人来り永き日暮れぬ

人形の独りと動く日永かな 漱石

永き日や動き已みたる整時板 漱石

天領の銃音慣れて日永かな 碧梧桐

永き日の自ら欺くに由もなし 鬼城

入り口は日永大和を山河内 碧梧桐

ながき日や洛を中の社寺詣 蛇笏