和歌と俳句

辛夷 こぶし

梢ふむ道に辛夷の白きかな 白雄

律院の松亭々と辛夷かな 碧梧桐


たらの木のもゆらくしるく我が藪の辛夷の花は散りすぎにけり

舊山廬訪へば大破や辛夷咲く 蛇笏

韮萌ゆる畑見つゝ来れば辛夷哉 碧梧桐

赤彦
国境とほのぼり来し野の上にほかり白きは辛夷の花か

茂吉
見はるかす山腹なだり咲きてゐる辛夷の花はほのかなるかも

四つ目垣茶室も見えて辛夷哉 漱石


楢の木の枯木の中に幹白き辛夷はなさき空蒼く濶し

赤彦
枯芝原よべ降りし雪のとけしかば辛夷の花は雫してあり

牧水
津軽にて 田打桜と 聞きし花 いまぞ咲きたれ 岩代辛夷

牧水
とつとつと 早瀬流れて 咲き垂れし 田打桜は 花雪の如し

牧水
君が背に辛夷白花咲き枝垂れその花を背に君はまだ酔はず

牧水
春はやく匂ひ出でたる白花の辛夷の枝の垂りのよろしも

赤彦
産土神の杉の木立にはさまれる辛夷樹の花はおくれて咲けり

千樫
道入れる雑木林にひともとの辛夷白花にほひてありけり

風落つるさまなき夕日照る辛夷 亜浪

湖と共に曇りし辛夷かな 喜舟

ばらばらに咲いて辛夷の白さかな 花蓑

蒼白く夕かげりたる辛夷かな 花蓑

ほのめきてよそ木のひまの辛夷かな 風生