和歌と俳句

春の海

住よしや河掘添て春の海 凡兆

春の海終日のたりのたり哉 蕪村

むらさきに夜は明かゝる春の海 几董

はるの海遊びわすれて啼烏 青蘿

はるの海鶴のあゆみに動きけり 青蘿

子規
見わたせば もろこしかけて 舟もなし 霞につづく 春の海原

春の海に橋を懸けたり五大堂 漱石

塩釜のけぶりをおもへ春のうみ 龍之介

長崎の燈に暮れにけり春の海 水巴

青楼や欄のひまより春の海 漱石

晶子
春の海 潮時こしと 来し波の うへに富士あり ほのむらさきに

牧水
春の海 ほのかにふるふ 額伏せて 泣く夜のさまの 誰が髪に似る

牧水
いづくにか 少女泣くらむ その眸の うれひ湛えて 春の海凪ぐ

牧水
春の海 さして船行く 山かげの 名もなき港 昼の鐘鳴る

牧水
春の海の 静けさ棲めり 君とわが とる掌のなかに 灯の街を行く

晶子
春の海 わかめの色の さざ波に 白き月うく 夕となりぬ

左千夫
春の海 西日にきらふ 遥かにし 虎見が崎は 雲となびけり

城中の雨意島原や春の海 碧梧桐

牧水
春のうみ 魚のごとくに 舟をやる うらわかき舟子は 唄もうたはず

明るみて月夜となりぬ春の海 草城

日かげりて浪曇りけり春の海 草城

足投げ出せば足我前や春の海 石鼎

春の海岬の数を並べけり 喜舟

春海や波またぎまたぎ潮汲める みどり女

晶子
おぼつかな 夢を見よとも 醒めよとも 暁に鳴る 春の海かな

船上ぐる人の声かや春の海 普羅

春の海や暮れなんとする深緑 普羅

品川や茶の間の奥の春の海 茅舎

下駄はいて這入つて行くや春の海 虚子

春の海怒涛となりて磯にあがる 秋櫻子

春の海かなたにつなぐ電話かな 汀女

スロープの丘の彼方の春の海 立子

長江の濁りまだあり春の海 虚子

春の海辺波やさしく夕づきぬ 草城

春の海くらげの傘のまんまろに 野風呂

山畑に残る蜜柑や春の海 たかし

燈台にぱむぱむ春の海よする 槐太

家持の妻恋舟か春の海 虚子

春の海入り込みここを油壺 虚子

少女の瞳に春海濁りゐるもたのし 綾子

春の海むかしのごとく天守より 青邨