和歌と俳句

高浜虚子

前のページ< >次のページ

下駄はいて這入つて行くや春の海

裏濱は家族ばかりの汐干潟

や絶えず二三羽こぼれ飛び

春草に脱ぎし草履の重なりぬ

ちらつける雪に農婦や枝垂梅

炭竃のだんだん多しの谿

かくれ家をかいま見すれば雛飾る

後澗に入らず春山歩をかへす

歸る雁幽かなるかな小手かざす

竹林にすき見ゆ家や春の雨

雨の傘にあげぬ橋の人

畑打も女が多し南伊勢

神前のに進める修交使

白雲のほとおこり消ゆ花の雨

ひそやかに花見弁当うちかこみ

磯遊び二つの島のつづきをり

川舟に岸の山吹揺れなびき

四畳半三間の幽居や小米花

桑蔵の戸は開け放し蠶飼かな

事務多忙頭を上げて春惜む

猫柳光りて漁翁現れし

立止まりと見る園主に萌ゆる草

里方の葵の紋や雛の幕

雛の幕引きも絞りて美しや

雛壇の前より人の居流れし