下駄はいて這入つて行くや春の海
裏濱は家族ばかりの汐干潟
囀や絶えず二三羽こぼれ飛び
春草に脱ぎし草履の重なりぬ
ちらつける雪に農婦や枝垂梅
炭竃のだんだん多し梅の谿
かくれ家をかいま見すれば雛飾る
後澗に入らず春山歩をかへす
歸る雁幽かなるかな小手かざす
竹林にすき見ゆ家や春の雨
雨の傘燕にあげぬ橋の人
畑打も女が多し南伊勢
神前の花に進める修交使
白雲のほとおこり消ゆ花の雨
ひそやかに花見弁当うちかこみ
磯遊び二つの島のつづきをり
川舟に岸の山吹揺れなびき
四畳半三間の幽居や小米花
桑蔵の戸は開け放し蠶飼かな
事務多忙頭を上げて春惜む
猫柳光りて漁翁現れし
立止まりと見る園主に萌ゆる草
里方の葵の紋や雛の幕
雛の幕引きも絞りて美しや
雛壇の前より人の居流れし