高浜虚子
春の山増上教寺聳えたり
蓑つけて主出かけぬ鮎汲みに
齢とれば彼岸詣りも心急き
燕のしば鳴き飛ぶや大堰川
園丁の指に従ふ春の土
一を知つて二を知らぬなり卒業す
蕨背に湯の山道を下り来る
姉の留守妹が炊ぐ蕨飯
秋篠はげんげの畦に仏かな
遅き妓は東をどりの出番とや
船の出るまで花隈の朧月
旅荷物しまひ終りて花にひま
ちろちろと燃ゆる煖爐や山櫻
中堂よ大講堂よ山櫻
よき椅子にどかと落ちこみ花の館
賓客となりて一日や花の館
椿先づ揺れて見せたる春の風
仰向けて奉捨受けけり遍路笠
鹿の峰の狭き縄手や遍路行く
道のべに阿波の遍路の墓あはれ
音もなき老の朝寝の気がかりな
藤垂れて今宵の船も波なけん
奈良茶飯出来るに間あり藤の花