和歌と俳句

高浜虚子

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順礼の笠に願あるかな

更けゆくやに降りこむ雨の音

花吹雪狂女の袖に乱れけり

京女に狂はぬ罪深し

朝櫻一度に露をこぼしけり

餅うるや春を近江の三井の寺

落葉焚いて春立つ庭や知恩院

川添ひの片頬つめたき二月かな

鍋さげて田螺ほるなり京はづれ

雉子なく滋賀の山人老ぬらし

春雨のともし火細し普門品

春雨の衣桁に重し恋衣

春雨や傘渡る裏の川

藪の中にほこらの灯見ゆ春の雨

春雨の貴船に詣る女かな

松一木獨り畑打つ男かな

家ありや木曽の谷間に畑打つ

鶏の築地をくづす日永かな

山里や薪割る庭の桃の花

金殿に灯す春の夕かな

春の夜の金屏くらし大広間

花の雲ふし拜み行く社かな

ちる時を夕風さそふさくらかな

夕暮の汐干淋しやうつせ貝