棉の実を摘みゐてうたふこともなし
湖の波稲架のしたびに来ては消ゆ
暮れはやきひかりは波に蓼の穂に
梓川瀬音たかまるキヤンプかな
嶺の星いろをかへたるキヤンプかな
峡の温泉は白樺を焚く火をあげぬ
蕗の薹出て荒れにけり牡丹園
洲の鴨のふたたび鳴かぬ夜の雨
渡舟守いとまのあれや麦ふみに
降る雪にさめて羽ばたく 鴨のあり
筑波嶺の消えて畦火も衰へぬ
はしりきて二つの畦火相搏てる
斑鳩の塔見ゆる田に藺は伸びぬ
雪渓のとけてとどろく 蕨かな
常念が吐く霧さへや夕映ゆる
霧の底星まつる灯が見えきたる
峡の温泉はひそやかなれど星祭
啄木鳥や湖の光がくる林
関の址いまは蓮の枯るるのみ
はたはたのあがりて関のさまもなし
山茶花のこぼれつぐなり夜も見ゆ
行きゆきて深雪の利根の船に逢ふ
この入江吹雪の船の来てかかる
ふなびとら鮫など雪にかき下ろす
老いし水夫吹雪の面を手に拭ふ
暗き帆の垂れて雪つむみなとかな