加藤楸邨
元旦の汽罐車とまり大きな黒
元日の坂登りをり何かあるごとく
雪嶺へゆく目もどる目煙たつ
祈りに似て煙はながし雪嶺下
顎閉ぢて生涯冬の竹のごとし
寒に入る石を掴みて一樹根
寒鯉がうごき嶺々めざめてり
寒さやか朝の涙はあざむかず
虹消えて馬鹿らしきまで冬の鼻
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
鵙の黙冬霧の壁もう動け
冬牡丹あまり露骨に脚がたつ
おのづからひらく瞼や牡丹雪
青天のどこもいきいき冬の煙
ゆきちがふ枯木の右は我が行き
こんこんと吹雪の噴井頭を振りて
冬の視野一黒煙をえてさだまる
幾千の銀座の顔の冬の黙
未還の夫へ刺繍未完の冬牡丹
雪の中鴉のむくろ目をあけゐる