和歌と俳句

加藤楸邨

さえざえと雪後の天の怒濤かな

白魚に旅ゆく朝の明けはなれ

あけぼのや欅を春の露はしり

榛の芽や吹きとぶ濤は濤の上

谿ふかく篁あふつ霙かな

岩の秀の十基の墓の春没日

霙うつ夜見の砂丘の汽笛かな

春寒く甲板の鉄鎖ひきずらる

春暁の啼くとき鴎やめば雪

春暁の水脈二岐れ明けきたる

東風の濤谷なすときぞ隠岐見え来

崖の上に犬吠えたつる雪曇

雪の湾幾千の海月ながれたり

春愁やくらりと海月くつがへる

春さむく海女にもの問ふ渚かな

赭き崖の滴るごとし春没日

わが肩や雲より赫と春日の手

笹鳴やほとほと燃ゆる火山岩

春日没る始終の巌かな

春さむき顔も巌のひとつかな

巌・濤どこか笹鳴してゐたり

春怒濤ずんずん暗き巌かな

暗に湧き木の芽に終る怒濤光

春寒のぶつかりあへる海月かな

牧の牛濡れて春星満つるかな