和歌と俳句

隠岐

黒鯛釣に港湾の潮碧なす 野風呂

碇泊の暁凪に黒鯛を釣る 野風呂

帝しのぶ同じ思ひに秋の旅 野風呂

鮑つき浪にもまれてあやまたず 野風呂

鵜よごれの島をめぐりて鮑つく 野風呂

只一つ鵜の守るのみの沖の石 野風呂

がちやがちやの島の白夜を鳴きしきる 野風呂

まどかなる月になりゆく隠岐の旅 野風呂

秋山に放牧の柵高く高く 野風呂

大露や馬の仔飛んで干草原 野風呂

月落ちてあやに昏しや隠岐の島 野風呂

星とんで隠岐の舟路の早も秋 野風呂

飛魚のきらめきとべる朝日浪 野風呂

相よれる隠岐の四島や明易き 野風呂

七百年のみなげき今に秋の蝉 野風呂

秋風に遠島百首繙くも 野風呂

湾をなす島山ひきし盆の月 野風呂

島民の踊る三夜を月皎し 野風呂

島踊旅の枕にひゞき来る 野風呂

放牧の牛馬に馴れて島の秋 野風呂

ふなばたを半ばのり出て鮑突く 野風呂

花葛や馬柵をぬけゆく詣で道 野風呂

壺焼やどこか雅びし隠岐言葉 蕪城

東風の濤谷なすときぞ隠岐見え来 楸邨

崖の上に犬吠えたつる雪曇 楸邨

雪の湾幾千の海月ながれたり 楸邨

鳥雲に隠岐の駄菓子のなつかしき 楸邨

バスを待つ隠岐の巡査につばくらめ 楸邨

耕牛やどこかかならず日本海 楸邨

春田打つかそかな音の海士郡 楸邨

隠岐深き東風の四五戸の出征旗 楸邨

鳥の名をしらねば仰ぎ松の花 楸邨

濤響く遠島抄の木の芽かな 楸邨

その日萌え今日萌え隠岐の木の芽かな 楸邨

ひとは征きわれ隠岐にありつばくらめ 楸邨

隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな 楸邨

隠岐の島段々春田海に落つ 楸邨

春寒き闇に灯ともせ隠岐の島 楸邨

隠岐富士と呼ぶしたしさや畦を塗る 青畝

早乙女は隠岐の國なる媼かな 青畝

高稲架の日おもてにして穂の満つる 爽雨

この浦の戸々に船倉天高し 爽雨

野菊濃し旅の参陵参仏に 爽雨

野菊見るひとつびとつは弁を欠き 爽雨

宮址出て隠岐の高稲架手ふれゆく 爽雨