和歌と俳句

加藤楸邨

船酔のきのふに遠き花杏

石屋根の崩れきつたる花杏

膝に手拭き荒田打ちやめ美しき

畑打つもかりかり岩の土掻いて

耕牛やどこかかならず日本海

春田打つかそかな音の海士郡

あるときは陽炎となり田を打ちぬ

生ひて断雲青きところかな

春潮の音の寂しきまつぴるま

隠岐深き東風の四五戸の出征旗

鳥の名をしらねば仰ぎ松の花

春愁や四五本なれど松の風

濤響く遠島抄の木の芽かな

木の芽ただ萌ゆべきものか萌えにけり

その日萌え今日萌え隠岐の木の芽かな

水温むとも動くものなかるべし

ひとは征きわれ隠岐にありつばくらめ

隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな

隠岐の島段々春田海に落つ

春の水つまづく石に流れたり

荒東風に木瓜一幹の古びかな

島の子に手あげてみんや花杏

牡丹の芽炎となりし怒濤かな

春の闇いつまで海月目をすぐる

船過ぎてふたたび暗し花杏