和歌と俳句

田打ち

二渡し超えて田を打ひとり哉 一茶

生きかはり死にかはりして打つ田かな 鬼城

谷底に田打てる見えて一人なり 亞浪

田打鍬一人洗ふや一人待ち 素十

田打蓑きて御手洗に口すすぐ 素十

汽車見えてやがて失せたる田打かな 不器男

水流れきて流れゆく田打かな 不器男

吉野路の雲居きびしき田を打てり 楸邨

棚田うつ一人に塊もささ埃り 蛇笏

肩ぬぎぬそれより田打鍬高く 青畝

膝に手拭き荒田打ちやめ美しき 楸邨

春田打つかそかな音の海士郡 楸邨

あるときは陽炎となり田を打ちぬ 楸邨

荒鋤田火山の夜陰濃かりけり 林火

馬悲し火の山すその田を打てる 青畝

流さるるやも知れぬ春田を打ちゐたり 林火

眼には或るものを引き据ゑ春田打つ 静塔

ふるさとの憶えは田打姿のみ 爽雨