新古今集・雑歌 能因法師
いそのかみふりにし人をたづぬれば荒れたる宿に菫摘みけり
公実
昔みし 妹が垣根は 荒れにけり つばなまじりの 菫のみして
顕季
きぎすなく 山田の小野の 壺すみれ しめさすばかり なりにけるかな
千載集 修埋大夫顕季
きぎすな鳴く岩田の小野のつぼすみれしめさすばかりなりにけるかな
俊頼
わぎもこが花の袂をかたみにてつめる菫ぞ心してみよ
俊頼
たれと見てしのびかはさんつれづれと来し雨降りて菫咲く野を
俊成
すみれさく浅茅が原に分けきてもただひた道にものぞ悲しき
俊成
紫の根はふよこ野のつぼすみれま袖につまむ色もむつまし
西行
あとたえて淺茅しげれる庭の面に誰分け入りてすみれつみけむ
西行
誰ならむあら田のくろに菫つむ人は心のわりなかりけり
定家
故郷のあれ行くにはのつぼすみれただこれのみや春を知るらむ
定家
春雨のふる野の道のつぼすみれ摘みてをゆかむ袖はぬるとも
俊成
み熊野のはまゆふかげに咲くすみれ重ねて色のむつまじきかな
俊成
すみれさくとほさと小野の朝露に濡るとも摘まむ旅のかたみに
俊成
すみれ咲く浅茅が庭は踏み分けて訪ふ人なきもさもあらばあれ
俊成
松かげに咲ける菫は藤の花ちりしく庭と見えもするかな
実朝
浅茅原ゆくゑもしらぬ野辺にいでてふるさと人はすみれつみけり