今朝みれば霞の衣たちかけて御裳濯川も氷とけゆく
君をいはふ子の日もあまた過ぎにけりあはれとおもへ春日野の松
霞こそたちこめたるを鈴鹿山春になるとはいかでいふらむ
古巣いでて心たかくもうつるなる神路の山のうぐひすのこゑ
今日とてや磯菜つむらむいせしまや一志の浦のあまのをとめご
おなじくは花さくまではまちつげよ吉野の山の峯の白雪
ひと木だに匂ひはとほしもろこしの梅咲くみねを思ひこそやれ
たをやめのよとての姿おもほえでまゆよりあをき玉柳かな
たがためにしのびのをかの下蕨けぶりはたてずもえわたるらむ
なをおもへ櫻のみやに祈りみむ花をちらさぬ神風もがな
春雨はみどりの空をうつしもて水の色をも染むるなりけり
をがさはら焼野のすすきつのぐめばすぐろにあるくかひの黒駒
秋はきて春はとこよに帰る雁夏やすずしきすみかなるらむ
あはれとは夜のつるをぞ思ひしを春の山にもよぶこどりなく
音羽川せきいれてまける苗代に秋の空こそかねて見えけれ
こなきつむあがたの井戸のかきつばた花の色こそ隔てざりけれ
あはれとも憂しともおもふ藤の花などかしづえにわれをなしけむ
むかしたれ植ゑはじめてか山吹の名を流しけむゐでの玉水
けふくれぬ夏のこよみをまきかへしなほ春ぞとも思ひなさばや