過ぎて来し外山の花と咲きにけり深きにほひを惜しみつるまに
夕づく日入るさの山の川櫻うすくれなゐに花ぞかがやく
雪はれぬ千歳の谷の遅櫻いくたび春をよそにきくらむ
さくら花ちるを見つごと世の中を思へば旅のうきねなりけり
春駒の雲にいりぬと見えつるは野邊のさくらの花盛りかも
月影のさやけき秋にあらねども咲く花春も白河の関
風の音も岩のけしきも寄る波も荒きいそべにいかにさくらぞ
あだに散る櫻もよよや過ぐすらむ浦嶋の子が恋ひしかみやま
山風をならしの岡よ心あらばあたりの花は除きて吹かせよ
あまの住む宿のさくらに吹く風を恨みてのみも過ぐる春かな
咲きかかる枝垂り櫻によらはれてしづえにまがふ瀧の白糸
ささくりやくぬぎまじりのを林にあないぶせげの花のありかや
いひたつるかたそに臥せる這ひ櫻したゆく水に根や浮きぬらむ
蚕養する賤がそのふの花さくら桑のたかせに下枝折らるな
宿ふりて木のしたかげにむす苔よ散りつむ花をまたは散らすな
軒ちかき花はこずゑを離るともしのぶにしばし中やどりせよ
岩橋を渡しはてよな葛城や吉野のかひの花もをるべく
はるばると一むらみゆる白雲は誰が住む里のこずゑなるらむ
花の散る宿のあたりに住むときは吹き来る風をさしもいとはぬ
ふもと寺としふる棟の苔のうへに峯のさくらの種おひにけり