後拾遺集・春
たづねつる 宿は霞に うづもれて 谷のうぐひす 一こゑぞする
後拾遺集・春
花ならで をらまほしきは 難波江の 蘆のわかばに ふれる白雪
後拾遺集・夏
さみだれは みえしをざさの 原もなし 浅香の沼の 心地のみして
後拾遺集・秋
すむ人も なき山里の 秋の夜は 月のひかりも さびしかりけり
後拾遺集・秋
けさきつる 野原の露に 我ぬれぬ うつりやしぬる 萩が花ずり
後拾遺集・秋
見しよりも 荒れぞしにける 磯の上 秋は時雨の ふりまさりつつ
後拾遺集・秋
あすよりは いとど時雨や ふりそはん 暮れ行く秋を 惜しむ袂に
後拾遺集・秋
明けはてば 野邊をまづ見ん 花薄 まねくけしきは 秋にかはらじ
後拾遺集・賀
ことしだに 鏡と見ゆる 池水の 千代へてすまむ 影ぞゆかしき
後拾遺集・雑歌
月みては たれもこころぞ なぐさまぬ 姨捨山の ふもとならねど
後拾遺集・雑歌
山のはに 隠れな果てそ 秋の月 このよをだにも 闇にまどはじ
後拾遺集・雑歌
いにしへを こふる寝覚めや まさるらむ ききもならはぬ 峰の嵐に
後拾遺集・雑歌
鳥もゐて 幾代へぬらむ 勝間田の 池にはいゐの あとだにもなし
後拾遺集・神祇
けふ祭る 三笠の山の 神ませば あめのしたには 君ぞさかえむ
金葉集・秋
すむ人も なき山里の 秋の夜は 月の光も さびしかりけり
金葉集・秋・千載集・羈旅
有明の 月も清水に 宿りけり こよひはこえじ 逢坂の関
金葉集・恋
恋ひわたる 人に見せばや 松の葉も した紅葉する 天の橋立
詞花集・春
散る花も あはれとみずや 石の上 ふりはつるまで 惜しむこころを
詞花集・恋
こほりして 音はせねども 山川の 下は流るる ものと知らずや
千載集・哀傷
植ゑおきし 人の形見と 見ぬだにも 宿のさくらを たれかをしまぬ