中務卿具平親王
春くれば散りにし花も咲きにけりあはれ別れのかゝらましかば
返し 前大納言公任
行き帰り春やあはれと思ふらん契りし人のまたも逢はねば
藤原範永朝臣
植ゑおきし人の形見と見ぬだにも宿のさくらをたれかをしまぬ
和泉式部
をしきかな形見に着たる藤衣たゞこのごろに朽ちはてぬべし
藤原道信朝臣
くちなしの園にや我が身入りにけむ思ふことをもいはでやみぬる
藤原頼孝
思ひかねきのふお空をながむればそれかと見ゆる雲だにもなし
花山院御製
うつゝとも夢ともえこそ分きはてねいづれの時をいづれとかせん
源道済
さくら花見るにもかなしなかなかにことしの春は咲かずぞあらまし
道命法師
おくれじと思へど死なぬ我が身かなひとりや知らぬ道をゆくらん
藤原長能
老いらくの命のあまり長くして君にふたたび別れぬるかな
上東門院
ひと声も君に告げなむほとゝぎすこのさみだれは闇にもどふと
弁の乳母
あやめ草涙の玉にぬきかへて折ならぬねをなほぞかけつる
返し 江侍従
玉ぬきしあやめの草はありながらよどのは荒れんものとやは見し
大弐三位
かなしさをかつは思ひもなぐさめよ誰もつひにはとまるべきかは
返し 大納言藤原長家
たれもみなとまるべきにはあらねどもおくるゝほどはなほぞかなしき
承香殿女御
おほかたにさやけからぬか月かげは涙くもらぬ人に見せばや
小弁命婦
かなしさに添へてももののかなしきは別れのうちの別れなりけり
前中宮宣旨
憂きもののさすがにをしきことしかな遠ざかりなん君が別れに
返し 大納言藤原長家
かなしさはいとゞぞまさる別れにしことしもけふを限りと思へば
紫式部
いづかたの雲路と知らば尋ねましつらはなれけん雁のゆくへを