和歌と俳句

和泉式部

後拾遺集・神祇
もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出る玉かとぞ見る

千載集・雑歌
かほる香によそふるよりは時鳥きかばやおなじ聲やしたると

後拾遺集・雑歌
ことわりやいかでか鹿の鳴かざらんこよひばかりのいのちと思へば

後拾遺集・雑歌
いかなればおなじ色にておつれどもなみだは目にもとまらざるらん

千載集・羇旅
水のうへにうき寝をしてぞ思ひしるかゝれば鴛も鳴くにぞありけり

潮のまによもの浦々たづぬれば今はわがみのいふかひもなし

新古今集・雑歌
世をそむくかたはいづくにありぬべし大原山はすみうかりきや

すみなれし人かげもせぬわが宿に有明の月のいく夜ともなく

千載集・雑歌
命あらばいかさまにせむ世を知らぬ虫だに秋は鳴きにこそ鳴け

千載集・離別
別れても同じ都にありしかばいとこのたびの心ちやはせし

金葉集・別離詞花集・別
もろともにたたましものをみちのくの衣の関をよそにきくかな

春のよの月はところもわかねども猶すみなれし宿ぞこひしき

みるらむと思ひをこせて古郷のこよひの月をたれながむらん

後拾遺集・羇旅
言問はばありのまにまに都鳥みやこのことを我に聞かせよ

後拾遺集・哀傷
立ちのぼる煙につけて思ふかないつまた我を人のかく見ん

千載集・哀傷
をしきかな形見に着たる藤衣ただこのごろに朽ちはてぬべし

後拾遺集・哀傷
今はたゞそよそのことと思ひ出でて忘る許の憂き事もがな

後拾遺集・哀傷
捨てはてむと思さへこそかなしけれ君になれにし我身と思へば

新古今集・哀傷
置くと見し露もありけりはかなくも消えにし人を何に譬へむ

金葉集・雑
もろともに苔の下にはくちずしてうづもれぬ名をみるぞ悲しき

後拾遺集・哀傷
とどめおきて誰をあはれと思ふらむ子はまさけり子はまさりらん

ききときく人はなくなる世中にけふもわがみのすぎむとやする

思ひやる心はたちもをくれじをただひとすぢのけぶりとやみし

詞花集・雑
夕暮はものぞかなしき鐘の音をあすも聞べき身とししらねば

露をみて草葉のうへと思ひしはときまつほどの命なりけり